アジア・アウトリーチ・AR236

   香港

        香港の情勢 ⑴

              元アジア・アウトリーチ・インターナショナル会長
                    フランシス・K・ツイ

 香港の情勢が緊迫している。私たちが受け取っているメディアの情報は果たして どの程度現地に住んでいる人々の様子を伝えているだろうか?  元アジア・アウトリーチ国際部の会長であり、現在も香港に在住している フランシス・ツイ師に尋ねた。今回と次回に渡って、現地の声をお伝えする。

 日本の皆様が、香港に関心を持ちお祈りくださることに感謝します。 近年、香港はアメリカと中国という二つの大国の対立における引火点となっています。香港は今や平安を失っており、分極化しています。

 【混乱する香港】

 ご存じのように、二年前から、私の故郷「香港」は、暴動によって汚されてしまい、 私たちは互いに引き裂かされてしまうのではないかと感じるほどでした。 確かに、香港政府による統治が無能であることが大きな要因として責められています。 経済的な格差や高騰している住居は、住民たちの間に不満を抱かせています。 香港の若者たちの多くもイライラしています。その理由は、彼らが受けた教育が、 現在の雇用市場における競争力に対する備えを十分してくれなかったためです。 このため、仕事を求める若者たちは疎外感や将来への不安を抱えています。 若者たちが通りで叫んでいたスローガンは「世代による改革」であり、 ある人々は公に香港の独立を求めて声を上げています。 中国政府は頻繁に抗議者や暴動者の標的となっています。中国銀行の支店は放火され、 たくさんの中国系の会社の事務所も襲われました。

 過激な人々は香港の独立や「国際化」を求め、1997年香港の中国返還以前のイギリス統治時代の 国旗を恥ずかしからずに掲げていました。また、イギリスの王室国旗やアメリカ国旗も 掲げられていたのです。ある人々は、アメリカの介入を求めるプラカードを持っていて、 香港に軍を派遣するように求めていました。 インターネットにおける投稿もこれらと同様なものでした。

 香港は実に6か月から7か月間、自己負担と暴力とを忍耐してきました。 意見において対立している人々は、互いに戦っていました。反政府的な暴動者や、 一部の無政府主義に立つ人々はより暴力的な手段によって自分たちの主張を続けています。 通りに投げられた爆弾は数千個にも及んでいます。そして、私たちの公共の電車MTRなどは、 反政府暴動者たちによってひどく破壊されたのです。 最終的には新型コロナウィルスによる感染拡大が、通りで叫んでいる抗議者や暴動を 止めることになりました。2019年の後半に始まった厳しい試練に対して、 中国政府は一線を引いて介入していませんでした。ただ一度だけ、 中国人民解放軍の小規模な大隊が動きました。その時彼らは、香港の一般市民と手を取り合って、 通りに放置されていたゴミや暴動の後始末をしてくれたのです。 ほうきやシャベルを手にもって通りを片付けるため、彼らは銃や武器を自分たちの兵営に置いて、 カギをかけて香港に来たのです。

 【中国支配容認の香港市民】

 香港は確かに政治的に分極化しました。しかし、香港人の多くは香港に対する中国の支配を 認めているようです。一般市民である私たちは、ただより良い人生を送れるように保証して くれるよりよい政府を求めています。悲しくも、香港の教会も政治的に分極化しています。 私はこのことについて、昨年にローザンヌ委員会からの招待を受けて記事を書き、 このことを伝えることに努力を惜しまないでいます。

 昨年北京政府は、ついに国家安全保障法を香港に対して発布しました。 これによって香港政府は問題に対処するのに必要だった手段を手にすることになりました。 北京政府が国家安全保障法の発布に踏み切った一つの要因は、香港の混乱以外にもう一つあります。 それは西洋、とくに米国が香港における緊張を、民主化を前提にしているという枠組みを設けた上で、 香港と中国政府の両方を不安定化させようとしていることです。 すでにご存じかも知れませんが、中国はすでに自国の国家安全保障法を持っているですが、 1997年香港返還以降も、中国はこれを香港に対して発布していなかったのです。 1997年からの香港自治法は、香港政府が香港における国家安全保障法を発布することを 義務付けていました。ところが、22年以上経過した今でさえ、香港特別行政区政府はこの保障法を 発布することを遅延させたままなのです。結果、香港はスパイが潜伏しやすい有数の場所となって しまいました。まるでイギリス植民地時代にイギリス・エージェントの活動を引き継いで いるかのようです。10年ほど前に、CIAの元局員であるエドワード・ スノーデンがロシアに逃げるまで、なぜ数週間も香港に滞 在できたのかをよく考えていただきたい。

 北京政府と香港政府の両方は、2019 年の香港における 不安の背景には、海外からの投資や活動があるとの結論に 至っています。香港政府の指導者の中には実際に、反政府 的な人々が数名選ばれるほどでした。これによって内部か ら体制が覆される結果となったのです。このようなことが きっかけとなって、政府は選挙システムを見直し、反政府 的な人々が潜伏できないようにしたのです。

 メディアは簡潔にそして総合的に、最近の北京や香港政 府が行っている活動は、香港に対する中国政府の権威主義 的な接し方によっていると伝えています。しかしこれを伝 えているメディアは、西洋の政治的美辞麗句に支配されて いるようです。香港に住む大多数にとって、北京や香港政 府の活動は歓迎されているのです。それらが住民の毎日の 生活にいくらかの情緒と平和をもたらしているからです。 私は国家安全保障法を読みました。そしてその内容が、西 洋の国々の厳しさと同様であることに気付きました。米国 や英国やカナダの国家安全保障法に至っては、北京のそれ よりも詳細であり、いくつかの罰則は非常に厳しく規定さ れているようです。

                        〜次回につづく〜
 執筆者:フランシス・K・ツイ
アジア・アウトリーチ国際部会長(2007-2011)
英国聖公会宣教協会アジア会長(2012-2018)
アジアン・アクセス国際主事(2018-)



アジア・アウトリーチ・ジャパン・・・アジア・リポート No.236

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